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2025.03.05

ウイングトラベル

★海外旅行販売で旅行会社を使ってもらう仕掛けとは

 協調・共創の必要性などJATA経営フォーラムで議論 

 
 2月27日からオンライン配信が行われている日本旅行業協会(JATA)の「JATA経営フォーラム2025」では海外旅行マーケットの活性化に向けて「お客様に旅行会社に使ってもらうための仕掛け」と題してパネルディスカッションが行われた。海外旅行販売における募集型企画旅行のシェアが低下していることや多様化する流通形態などの実態を踏まえ、商品造成、商品流通、販売店舗のそれぞれの視点から旅行会社を活用してもらうために押さえておくべきポイントなどについて議論が展開された。

 

※写真=JATA経営フォーラムで行われた海外旅行パネルディスカッションの模様

 

 10年間で募集型企画旅行のシェア20ポイント低下
 OTAの台頭や航空座席・客室などの仕入環境変化

 

 今回の議論に阪急交通社営業統括本部の中野博文営業企画部長、エイチ・アイ・エス(HIS)海外個人旅行営業本部海外販売事業部の門倉尚史BtoB事業推進グループグループリーダー。そして、シティーツアーズの日比幹代表取締役の3人がパネリストとして参加。モデレーターはJATAの稲田正彦海外旅行推進部部長が務めた。
 議論の冒頭でモデレーターの稲田氏から、今回の議論はレジャー旅行市場を対象とすると前置きした上で、海外旅行における募集型企画旅行を取り巻く現状について説明を行った。
 稲田氏によると、2014年は全出国者数(約1690万人)に占める主要旅行業者における募集型企画旅行の取扱人数比率は22.9%となっていた。その後、海外渡航者数が過去最高となった2019年(約2008万人)には8.8%となった。
 その後コロナ禍を経て、2024年の渡航者数はコロナ禍前の約6割水準となる約1300万人となった。その中で1~11月段階での募集型企画旅行のシェアが2.6%まで低下。10年間でシェアが20ポイント以上低下したという実態を紹介した。
 稲田氏はこの10年間でOTAの台頭やダイナミックパッケージの登場など、流通チャネルや販売手法が変化していること。そして航空座席やホテル客室の仕入環境の変化などといったさまざまな動きが起きてきたことを挙げた上で、今回のディスカッションのテーマとして「お客様に旅行会社を使ってもらうための仕掛け~海外旅行における協調・共創~」とすることとしたと述べた。

 

 「さらに上を行く差別化」の実現へ
 複数の旅行会社による共同イベントも一案

 

 議論の最初のテーマとして商品造成の観点から、旅行者に魅力的な商品を提供するために取り組んでいることについて意見が交わされた。
 阪急交通社の中野氏からは、コロナ禍を経て大量仕入れ、大量販売の時代から少人数でのツアー催行が中心となる中で「小グループにあわせた仕入と販売が求められることになる。そうした環境下でビジネスを成り立たせる上でも『さらに上を行く差別化』が一層重要になってくる」と指摘した。
 その一例として、ミシュラン星付きレストランでの食事や特別メニューなどを挙げ、「旅行会社だからこそ実現できるテーマ性のあるしっかりとした商品企画が重要である」とした。
 さらに「トレンドを素早く捕まえて素早く商品化することも重要で、そのためにも海外の政府観光局を始めとしたビジネスパートナーとの連携を緊密にすることも大事だ」と指摘した。
 加えて中野氏は「旅行の価値を高めるのは『人の力』だ」と強調し、ローカルガイドの存在を始め個人手配ではできない体験を提供することも魅力的な商品提案のカギとなるとした。
 さらに上を行く差別化が商品造成に求められる中で、それを実現する一案としてJOTC(JATAアウトバウンド促進協議会)で企画された海外での共同イベントを紹介。そうした企画に積極的に協力していくことなど、旅行会社が一丸となって海外旅行市場を盛り上げていくことも必要であるとした。

 

※写真=阪急交通社営業統括本部の中野博文営業企画部長

 

 安心感・満足感が享受できているかを検証
 公正かつ自由な競争による磨き上げも

 

 HISの門倉氏からは、商品流通・販売チャネルの観点から、海外旅行市場の変化に対し、取り組むべき点について意見が寄せられた。
 門倉氏は旅行商品の販売において「現状で、どのような人が旅行会社を使っているのかというということをしっかりと検証していくこと。また、お客さまが申し込んだ旅行商品が安心感や満足感を享受できているのかを見る必要がある」と指摘した。
 そして旅行会社の商品販売において「LTV(顧客生涯価値)をいかに向上させていくことが大事である」とのべ、さまざまなタッチポイントで顧客との接点を持っていくことが必要不可欠であると指摘した。
 また、協調と共創という視点からは「旅行会社間で公正かつ自由な競争による磨き上げが必要なのではないか」と指摘。お互いが切磋琢磨しながら、満足度の高い商品づくりに取り組むことが重要であるとするとともに、顧客との提案力強化という観点から「自社の商品にとらわれないシームレスな商品提案も求められるのではないか」という考えを示した。

 

※写真=HIS海外個人旅行営業本部海外販売事業部の門倉尚史BtoB事業推進グループグループリーダー

 

 資格取得促進で、正確な知識を蓄積
 経験積むためにも長く働ける環境づくりを

 

 シティーツアーズの日比氏からは店舗販売の現場や中小旅行会社の視点から意見を述べた。
 日比氏は「旅行商品を販売していく上でWEBへの対応は避けては通れない道だ。ただ、中小事業者には投資の観点で限界がある。その一方でハネムーンや留学、グループ旅行に関しては消費者からニーズを聞き出して最適な商品提案をするということが求められる。そうした中で旅行会社には、リアルとデジタルのハイブリッドな環境が求められる」と指摘した。
 その中で旅行会社の存在感を発揮する上で「正確な知識の蓄積は欠かすことができない。知識の『見える化』を図るためにもさまざまな資格を取得することが重要である」とした。
 さらに「旅行商品販売の仕掛けとは離れてしまうかもしれないが」と前置きした上で「豊富な知識を得ることや感性を磨き上げるためにも、長く働くことが重要。そのための環境を整えていくことも経営者には求められてくるのではないか」と持論を展開した。

 

※写真=シティーツアーズの日比幹代表取締役

 

 「旅行会社=プロ」を見せつける
 AIではできない先回り型の提案実現を

 

 3人のパネリストからの意見を聞いた上でモデレーターの稲田氏からは「OTAとの競合が避けられない中で旅行会社は改めて『プロフェッショナル』を極め、プロであることを見せつけていくことが重要である」と述べた。その上で3人のパネリストに対し、プロフェッショナルに求められることについて意見を求めた。
 阪急交通社の中野氏からは「旅行会社間で一層商品を磨き上げること。そして旅行会社のスタッフ自身が旅を楽しみ、その感動を伝えることが大事だ」と指摘した。
 HISの門倉氏からは「AIでは対応しきればい部分をカバーすることが大事で、先回りした提案や期待以上の満足感を提供することがポイントとなる」と述べた。
 シティツアーズの日比氏からは「旅行会社のスタッフとして、確固たる自信を示すこと。そのためにも資格取得で知識を高めることが重要だ。あとは資質によるものが大きい部分があるが『販売のプロ』になることもポイントになるのではないか」と語った。

 

※写真=モデレーターを務めたJATAの稲田正彦海外旅行推進部部長