記事検索はこちらで→
2025.03.07

WING

内倉空幕長、F-35Bの新田原訓練継続に理解求める

 母基地で最小限の訓練「安全確保に極めて重要」

 防衛省・自衛隊は、航空自衛隊新田原基地へ配備するF-35Bの垂直着陸など一部訓練について、馬毛島の自衛隊施設整備後も新田原基地で訓練するよう地元の自治体へ要請している。その理由について内倉浩昭航空幕僚長は3月5日の会見で、F-35Bにとって「新田原基地は母基地であり、緊急時においては当該機に対する整備体制、着陸支援機能を有する同基地への着陸が基本」になるためだと説明。施設完成後には馬毛島で訓練を行うことはもちろんだが「必要最小限の訓練を新田原基地で実施することが安全を確保する上で極めて重要」だと強調した。
 F-35Bが行う垂直着陸訓練はこれまで、騒音の大きさなどを考慮して新田原基地では緊急時などを除いて実施せずに、整備が終わった馬毛島の施設で実施することを想定していた。しかし馬毛島の整備事業完了が2029(令和11)年度末の見込みとなったため、防衛省・自衛隊で改めて検討した結果、新田原基地で緊急時などの垂直着陸訓練に加え、練度向上の最低限の垂直着陸訓練を行うこととした。さらに馬毛島の自衛隊施設完成後も、引き続き新田原基地で訓練を行うとして方針を変更した。
 内倉空幕長は方針変更について、F-35Bの配備決定以降も日本を取り巻く安全保障環境の厳しさは一層増しているとし、日本の防衛を万全にするためには「F-35Bが能力を発揮するための訓練を一層効果的・効率的に実施することが必要」になったとのこと。さらにF-35Bの2個目飛行隊も新田原基地へ配備することが2023(令和5)年度に決まったことで、機数が増えていく中では馬毛島の施設と新田原基地の両方で訓練を行うことが効率的だとした。
 九州防衛局が自治体へ提出した資料によると、F-35Bの垂直着陸を伴う訓練は主に①機種転換やその後の技量維持のために行う緊急時の垂直着陸訓練、②緊急時の垂直着陸、③練度向上のための艦艇以外への垂直着陸訓練、④艦艇へ着艦を想定した練度向上のための模擬艦艇着艦訓練、の4つ。そのうち①、②、③の一部を新田原基地で、③の一部と④を馬毛島で行うことを想定している。新田原基地での訓練に向けて、基地への垂直着陸パッド増設を検討中だとした。
 またF-35Bの運用要領を改めて見直し、雨天など通常よりも長い滑走距離が必要な状況で安全に着陸するために、スローランディングの実施も地元へ求めていく考え。騒音の度合いは、通常着陸に比べて大きくなるが、垂直着陸よりも小さくなる見込みだとした。
 さらに垂直着陸訓練を行う頻度の想定については、8機配備の2025年度に月平均約30回として、そのうち夜間に約10回とする。2029年度は馬毛島整備完了前で、新田原基地へ配備する機数が最も多い約30機で、月平均約100回、うち夜間は約40回。2031(令和13)年度ごろには馬毛島の整備が完了し、約40機で2個目飛行隊の新編が完了することになり、新田原基地では約80回、うち夜間が約20回になり、馬毛島では約110回、うち夜間が約50回になるよう検討している。
 垂直着陸訓練1回の所要時間は約3分で、例として5回実施する場合は訓練間隔を含めて15~20分で実施可能であり、夜間訓練の日数や時間が今よりも増加することは考えていない。
 垂直着陸の騒音については、2013年に米国で行われた調査例では、それぞれの飛行や気象条件によるものの、着陸地点から約75メートルの地点で最大130デシベル、約300メートルの地点で最大110デシベルになるとしている。

 中国無人機への緊急発進「アンバランスな感じ」
 有人機での対処、空の守りに責任果たす

 内倉空幕長は、このところ中国軍が頻繁に日本周辺で無人機を飛行させており、その都度対領空侵犯措置として有人の戦闘機で対応している状況に「誰も乗ってない飛行機、すなわち搭乗者という意味では誰も疲れていない。それに対して有人機で対応することは、非常にアンバランスな感じ」だとして、不公平な印象を受けていることを示した。その上で、航空自衛隊は代えのきかない「空の守りの日本代表」であり、責任を果たして防空に努めていくとした。
 中国による日本周辺での軍事活動は、より拡大・活発化の傾向となっており「無人機の活発な飛行もその一環」に見えるという。そうした無人機への対応については、現在「我々は、人が乗った戦闘機できちんと対応する。今のところ、これしか方法がない」と述べ、それを粛々と行っていくことが最も重要だ他とした。
 また将来を見通した時には、AIを含め、DXが進むことで、実装化による「任務の効率化や、より効果的な対応が可能になるかもしれない」と期待感を示す。今後、技術動向を注視しつつ、装備品・システム・制度などを総合的に押し上げて「加速度的に厳しさが増す安全保障環境に、部隊が対応できるように整えていきたい」考えを強調した。
 特に最近では、2月26日に中国軍が飛行させた無人機の動向に注目した。当日は午前から午後にかけて、BZK-005偵察型無人機1機が東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島との間を通過すると、奄美大島沖まで飛行した後、引き返して再び沖縄本島と宮古島との間を通過した。また、同様に午前から午後にかけて、対領空侵犯措置で初めて中国軍のGJ-2偵察・攻撃型無人機1機を確認した。東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島との間を通過して太平洋上の奄美大島沖まで飛行した後に、反転して再び東シナ海に至った。
 同空域周辺では頻繁に中国無人機が飛行を行っているが、GJ-2を確認したのは今回の対領空侵犯措置では初めて。中国が力を入れる無人機の飛行について、警戒感を強めて対応に努める構えだ。

※写真1=馬毛島施設完成後も新田原基地での垂直着陸訓練に地元への理解を求めていく(提供:ロッキード・マーティン)

 

 

※写真2=対領空侵犯措置で初めて確認したGJ-2偵察・攻撃型無人機(提供:統合幕僚監部)