ハワイ州の観光戦略 Tourism Strategy of Hawaiʻi
ハワイ各島別にDMAP作成、観光産業再構築へ
地域主体でつくる観光再生アクションプラン
ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)は、「ハワイ州観光戦略プラン2020-2025年」戦略計画で、目標数値をこれまでの訪問者数から、
住民の満足度、旅行者の満足度、旅行者の1日あたりの消費額、総旅行者消費額に変更設定した。
これに基づき、HTAはカウアイ郡、マウイ郡(マウイ島、モロカイ島、ラナイ島)、ホノルル郡、ハワイ郡、各島の観光局と協力し、2021年
から2023年までの3年間で観光産業の安定化、新型コロナからの回復、各島が希望する観光産業への再構築のための地域密着型のデスティ
ネーション・マネジメント・アクション・プラン(DMAP)を作成し、観光の再生をめざす。【取材・文章・写真:編集統括 石原義郎】
島ごとにアクションプラン「DMAP」を策定
地域主導型のプログラム、州の観光戦略と連携
2019年にハワイ諸島への訪問者数は、過去最高の1038万人に達した。総消費額177億1060万ドル、、税収入は20億7000万ドル、雇用は21万6000人で、観光産業はハワイ州国内総生産(GDP)の16.2%を占めた。これは、不動産・レンタル・リースの18.8%に次ぐ2番目のGDPで、ハワイは観光産業が基幹産業となっている。
一方で、訪問者数の増加は一部の観光地や地域社会の環境に影響を及ぼした。旅行者の増加により、ハワイでは住民の生活の質だけでなく、訪問者の旅行体験の質にも影響を与えた。
DMAPは、各島の運営委員会の指揮のもと、地域社会、観光産業、その他の企業団体の参加によって、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)、オーバーツーリズムの観光地、交通負荷、その他の観光関連問題の解決策を見出す。
とくに、自然・文化資産の保全などについての意見を反映し、地域住民の生活の質を向上させ、訪問者の体験を改善するために必要な分野や実行可能な解決策を明らかにする。
活動内容は、HTAの戦略プランの4つの柱である自然資源、文化継承、地域社会、ブランドマーケティングと相互に関連づけて実施される。
HTAは、地域主導型の観光プログラムで、地域社会、観光産業、その他の企業団体がハワイの観光産業をより良い発展のために必要な取り組みを支援する。
HTAアンダーソン氏、オーバーツーリズム解決へ
コロナ経て再生型観光へハワイ州民の意識高まる
HTAのキャロライン・アンダーソン プランニングディレクターはDMAPについて、「デスティネーションをどのようにマネジメントしていくかにフォーカスを置いている。DMAPの推進には、責任ある旅行を啓蒙していくことが重要。また、オーバーツーリズムのインフラなどの問題点を協議、意見交換し、解決策に向かって関連する組織が連動して働きかけをしていくことが重要」と指摘した。
DMAPは2020~2025年の観光戦略に基づき島ごとに策定され、地域住民の満足度、問題意識、住民の意見を取り入れ、島ごとに活動が始まっている。
アンダーソン氏によると、DMAPは地域と協議、連動していくことが重要、各島の市郡、地域社会がグループでディスカッションし、旅行者に新しい体験を提供し、島のオーバーツーリズムになっているところを解決、自然保全を遵守しながら体験を生み出すことを協議している。したがって、DMAPは各島の住民が参加して最終的に作成したものであることを強調した。
2021年から始まったDMAPはフェーズ1が終わった段階だが、アクションプランは四半期ごとにレポートが提出されている。オアフ島はスタートが8月31日だったため、フェーズ1の途中にあるという。
各島では、旅行者の責任について啓蒙教育活動を行っている。次世代までに自然環境を守るため各空港で啓蒙ビデオを放映したり、サイネージ広告を掲出している。
具体的な事例では、ラナイ島はファンディングによりカルチャー・ヘリテージセ ンターがモバイルアプリを制作した。このアプリを旅行者がダウンロードして、情報のみならず安心・安全に旅をする方法やハワイアンカルチャーを学ぶことができる。アプリには一定の場所に行くと、その先は行かないなどの注意事項も示されるようになっている。
カ ウアイ島はレンタカーが多すぎて交通渋滞が問題になっていた。カウアイ島観光局が情報を一つにまとめて、ここはシ ャトル、ここはバイクで走るなどの交通手段を推奨し、車の交通量を減らす運動を展開した。カウアイ島の自治体と観光局が住民を含めて協議して作成した。
オ アフ島も交通渋滞が問題になっている。そこで、オアフ島の地域住民と旅行者をつなげるプログラムを作成した。各島のことを各島の住人が考えることが重要で、旅程、体験を島のアドバイザリーグループがつくっている。
モロカイ島ではDMAPタスクフォースが構成され、トップや住民が一緒になってメッセージを考える。どうやって伝え、啓蒙していくか。モロカイ島はビジネス開発、商品開発、サービスのあり方を協議している。島への航空便が少ないために航空運賃が高いため、地域住民、旅行者が安く往来することができないか協議している。
HTA、観光収益を地域社会の事業に還元
イベント、文化継承、ボランティア活動に補助
HTAでは、観光で得た利益を地元に還元する3つのプログラムを用意している。
まず第1は「Community EnrichmentProgram(CEP)」で、ハワイのコミュニティに根ざしたプロジェクト、フェスティバル、イベントを支援し、住民や観光客の体験を向上させ、有意義な経済発展の機会を創出することを目的としている。例えば、オキナワン・フェスティバルやコナコーヒーフェスティバルなどのイベントで地元と繋がり、旅行者が体験できるフェスティバルに補助金を出したり、サポートをしている。
第2は「Kūkulu Ola program」で、主にハワイ文化継承の団体、グループ補助金をサポートする。住民や観光客に本物の体験を通してハワイ文化を高め、強化し、永続させる地域密着型の受賞団体に資金援助を提供する。カヌーを置く場所の補助、ハワイ語の新聞をデジタル化するなどのサポートをしている。
第3は「Aloha ʻĀina program」で、 ʻĀinaはハワイ語で大地という意味。ハワイの自然資源と環境を管理、保全、再生するアイナ・カナカ(大地と人間)の関係と知識に重点を置いた責任あるコミュニティベースの事業体に資金援助する。次世代に教育しながら伝えていくプログラムが多い。ボランツーリズム、ビーチクリーンナップ、トレイルの整備、フィッシ ュポンド(養魚池)の復元、タロイモ畑の育成体験プログラムになどが挙げられる。
ア ンダーソン氏は、DMAPにより「住民と旅行者の満足度を上げることが重要
で、満足度は確実に上がっている」と評価した。
再生型観光への取り組みは、ハワイの人々が望んでいることであり、オーバーツーリズム、コロナ禍を経て、ハワイ州全体で自然環境に対する意識が高まった。解決すべき課題は多いが、旅行会社には、地域住民と旅行者の満足度が向上する旅行商品の造成が期待される。
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「ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチThe Ritz-Carlton Residences, Waikiki Beach」