グアム政府観光局(GVB)秋葉祐輔エグゼクティブ・ディレクターインタビュー
あらゆるターゲットを網羅するプロモーションを積極展開
まずはコロナ前のグアムの“日常”を取り戻す
これまで常に「コロナ後」を見据え、さまざまな需要喚起策を実施してきたグアム政府観光局(GVB)。日本に帰国する際のPCR検査が不要になるなど、海外旅行を後押しする環境が整いつつある。新体制に移行したGVB日本オフィスが描く「コロナ後」を見据えたプロモーションとは――。秋葉祐輔エグゼクティブ・ディレクターに話を伺った。
日常を取り戻しつつあるグアム
現地事業者が待ち望む日本市場の回復
グアムの会計年度である2 0 2 2 年度(2021年10月〜2022年9月:FY2022)は、7月末の段階でグアム政府観光局(GVB)の予測を約16%上回る15万人がグアムを訪れた。主にアメリカ本土から軍関係者の家族による訪問や、韓国市場の回復などが後押しした形となった。市場別シェアのトップは韓国で約68%。日本は帰国時の規制があったことから、シェアは5%にとどまっていた。
9月7日からはワクチンを3回接種していることを条件に、日本に帰国する際のPCR検査での陰性証明が不要となった。GVBではこれが後押しすると見て、FY2022のグアム来島者は20万人程度になると予測している。秋葉氏も「特にグアムは2泊3日や3泊4日で簡単に遊びに行けるデスティネーションなので、働いている世代が気軽に遊びに来られるようになるはず。やはりPCR検査不要というのは大きなファクターだ」と現役世代の旅行需要増に期待を寄せる。
最近では週末になると人気レストランの予約が取りにくくなるほど活況で、主要ホテルの7〜8月の稼働率も70%超で推移しているという。グアムで見られる光景は、コロナ前の状況に近い“日常”に戻りつつあるといえる。それでも日本人旅行者をメインターゲットとしている事業者の一部が営業を再開できていないケースもある。グアムが“真の日常”を取り戻すには日本市場の回復が不可欠で、現地事業者の多くは日本人旅行者を心待ちにしている。
当面の目標は“コロナ前に戻す”こと
課題は座席数をいかに増やすか
コロナ前の2019年にグアムを訪れた日本人旅行者は、前年比21.6%増の68万4802人だった。グアムのF Y 2 0 1 9 でも25.4%増の66万4784人と、2018年後半からの回復基調が継続していた。この背景には、機材の大型化やチャーター便の増加などによる座席数の増加があった。グアムの事業者が期待するところは、2019年のような水準、あるいは最盛期に記録したような高い水準だ。
需要は高まると予想される一方で、コロナ禍によって白紙に近い状態からのスタートとなるのも事実だ。「GVB日本オフィスとして数字的な目標を掲げるのは非常に難しい状況」(秋葉氏)だが、当面の目標を2019年の水準まで戻すことに設定している。
目標を達成する上で課題となるのが、日本−グアム間の航空座席供給。日本からグアムへの直行便は現在、成田、名古屋、関西、福岡から運航しているが、航空座席数はコロナ前の状況には程遠く、仮にロードファクターが100%だとしても、目標をすぐにクリアするのは難しい。
それでもGVB日本オフィスでは、この規制緩和が冬場にかけて航空各社が路線を復活させたりチャーター便を運航したりするきっかけになると期待している。
GVBはGIAA(グアム・インターナショナルエアポート・オーソリティー)とともに、日本−グアム間の航空便を増やすための活動を本格化させる。9月上旬には羽田空港とチャーター便に関するミーティングを行うなど、すでに動き出しているケースもある。今後はさらに活発な働きかけを各方面に行っていく。
コロナ禍でも打ち出し続けた
需要喚起の販促活動
GVB日本オフィスは、コロナ禍において新体制に移行した。海外旅行のハードルが高く、旅行に踏み切る人はごく少数だった。そんな状況でもコロナ後を見据え、オンラインを中心に需要喚起の販促活動を続けてきた。
秋葉氏によると、GVB日本オフィスでは今年4月頃に海外旅行の規制が緩和されると想定し、昨年12月から周到な準備をしていたという。さまざまな反対意見がありながらも、毎月のように撮影クルーをグアムに派遣し、広告や販促の素材収集を重ねてきた。
また、今年がグアム−日本間の直行便就航55周年にあたることから「G o G o !GUAMキャンペーン」を立ち上げた。昨年11月からは、GVB公式アンバサダーのオーディションを開始。今年1月にグランプリ1名、準グランプリ4名、特別賞4名を選定し、公式ウェブサイトや公式SNS、広告でグアムの美しさや魅力を発信し続けてきた。6月以降は旅行会社向けの予算も確保。航空会社の協力も得ながらファムツアーを実施するなど、旅行業界ともタッグを組んで需要喚起に取り組み始めている。
ただし、ここまでの活動は、あくまでも「どんな販促活動を実施したのか」という観点でしか見ることができなかった。規制が緩和されたことにより、「いよいよ販促活動の成果を数字だけが証明するフェーズに入った。それ自体は歓迎すべきことだと思うし、結果はついてくると信じている」(秋葉氏)。
新年度からは具体的な旅行需要喚起へ
業界と消費者の双方に猛アピール
グアムは10月1日から新しい会計年度FY2023がスタートする。9月7日以降は規制が緩和されることもあり、新たな販促活動を行うには絶好のタイミングといえる。
旅行業界に対しては、地方の旅行会社も対象にしたファムツアーの実施や、グアムの事業者が来日してのフェイス・トゥ・フェイスのセミナー開催などを連続して行っていく。また、PCR検査が不要になったことを受け、グループやMICEの獲得に向けての活動も本格化する。修学旅行をはじめとする教育旅行に対応するための施策も、近いうちに打ち出す予定だ。旅行会社へのサポートプログラムについても準備ができ次第展開する。
消費者向けには、これまで行ってきた施策は継続展開する。特に「GoGo! GUAMキャンペーン」は、当初は実施期間を9月末までとしていたが、規制緩和により参加を希望する事業者が増えてきたため、12月末まで延長する。そして全国各地のイベントにも積極的に出展し、消費者に直接グアムをアピールする。
実際に旅行者が動き出すことに合わせ、販促活動のターゲットの幅もさらに具体的なものに広げていく。例えばブライダルやファミリー、シニア、SITなどだ。メインラインの広告にプラスし、これらの層をターゲットとする派生広告の展開も計画している。
SITについては、ゴルフやダイビングなど、すでに高い評価を得ているコンテンツに加え、今までグアムとしてあまり売り出してこなかったトレッキングも商品化に向けて整備が進められている。グアムの新たな魅力につながるような、まだ見たことのないグアムの景色を見られる点をアピールする。
こういったSITに特化したプロモーションのサポートも可能だという。グアムの長年の懸案事項となっている現地での消費額の増加という点でも、ラグジュアリー志向の消費者に喜ばれる施設が増えてきた。秋葉氏は、「ラグジュアリー層はもちろんだが、グアムに来ていただく方はどなたでも大歓迎。生活様式の変化さまざまな層をまんべんなく網羅できるような広告展開をしていきたい」と意気込んでいる。
安心安全で気軽に行ける
アメリカンリゾート
“帰国時のPCR検査不要”というニュースは、旅行業界に久しぶりに届いた明るいニュースだ。どのデスティネーションも日本人旅行者を呼び戻すために必死だが、GVB日本オフィスは、あらためてグアムの優位性を打ち出していく考えだ。
その優位性について秋葉代表は、「グアムは日本から近く、安心・安全なアメリカンリゾートで、しかも日本人旅行者を大歓迎するデスティネーション」と表現する。円安や物価高という逆風はあるが、距離が近いため航空運賃は比較的安く済む。こういったポイントもグアムの優位性としてアピールしていく構えだ。