ハワイ各島の観光計画「DMAP」
住民と観光客双方が満足できる観光づくりを目指す
ハワイ各島の観光計画「DMAP」
観光を通じ、地域の自然環境や文化歴史を尊重し、それを維持するだけでなく、再生していこうという「再生型観光(リジェネラティブツーリズム)」を目指すハワイ。そんな再生型観光を推進していく上での大きな施策のひとつが、ハワイの各島の観光局で策定された観光計画「DMAP(Destination Management Action Plan)」だ。 DMAPでは、ホテルやアトラクションなど、観光局のパートナー企業や地元自治体にとどまらず、再生型観光に基づき、地域住民を広く巻き込み、活発な意見交換を通じて、貴重な観光資源を次世代に引き継ぐための具体的なアクションを決定。そこには、地域住民と観光客双方が満足できる観光を目指した数々のプランが盛り込まれている。
昨年11月の「ジャパンミッション」で、ハワイ州観光局(HTJ)の現地上局にあたるハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)よりブランド責任者のカラニ・カアナアナ氏をはじめ、各島(カウアイ島、オアフ島、マウイ郡、ハワイ島)の観光局の代表が来日、DMAP策定の背景やその意義、さらに各島での代表的な取り組みについて紹介した様子を伝えたい。
HTAブランド責任者 カラニ・カアナアナ氏
再生型観光、DMAPに至った背景、その意義
コロナ前の2019年に来島者数が1000万人を超えた時点で、既に州民からの観光業に対するさまざまなフラストレーション、特にオーバーツーリズム(ホットスポット)へのコメントが出始めていた。
その後コロナ禍で時が止まり、州、地元コミュニティとのコラボレーションに注力し、対話を続けてきた。その中での新しい発見は、地元の方々がただ観光に反対しているわけでなく、ハワイの経済にとって観光業が大切であるという認識があった点だ。
観光を再開するにあたり、これまでと違った形で観光を再開できないか?なによりも自然資源を次世代の残していけるような観光へ向け、地元コミュニティとの情報交換を進めてきた。
その中でコミュニティの声が大きかったのは、ハワイらしさ、オーセンティックなハワイをしっかりと伝えてほしいということ。ハワイの文化、ハワイの人たちが大切にしているものを前もって旅行者に伝える啓蒙活動に力を入れていきたい。
また地域経済を活性化するため、中小ビジネスへのサポート、地元にお金を落とすような観光へのリクエストもあった。
私たちがコミュニティの方々との対話の中で、訪れる人たちがどういった価値をハワイで見出して頂けるのか、そして安全に滞在して頂けるか、環境面にも意識を持ってハワイに訪れて頂けるか、その滞在で体験、体感したものをどういった形で地元の方々とつなげていくか、地域住民と観光客の接点を作ることが大変重要と思っている。そしてそれが再生型観光につながると思っている。
一方、DMAPは、再生型観光に基づき、各島の観光局長がパートナーや地元ビジネス、自治体をつなげる橋渡し役となり、地元コミュニティとの対話の中で生まれた3か年計画だ。今後各島がどのように変わっていくのか、それぞれの島で問題点が違う。確かにチャレンジングだが、新しいチャンス、機会でもある。
日本マーケットへの期待
ハワイの人たちは、日本人が旅行者として一番模範的であると思っている。今までもハワイ文化を尊重、愛し、体験して頂いている。また地元の中小ビジネスへのサポートにおいても、メイドインハワイのものを買って頂いたり、レストランでロコモコ食べて頂いたり、小さなお店をサポートして頂いていたり、チェーン店ではなく、地元の小さいお店をメディア で紹介して頂くなど、さまざまな形で
サ ポート頂いている。
そうした中で、私たちは再生型観光やDMAPを推進しているが、ただ制限をかけるのではなく、地元住民と観光客が一緒になってハワイの貴重な資源を守っていけるようなデスティネーションを目指している。
日本からのお客様に関しては、まずハワイに来て頂きたい。確かに今は、円安であったりホテルの価格であったり、経済的にいろいろな壁がある。そういった壁がありつつもハワイが提供できる体験をぜひ検討して頂きたい。データだけで旅をあきらめるのではなく、自分たちに何が必要かを考えて旅行して頂きたい。癒しやリラックスのためにハワイへ訪れる、もちろん素敵なことだが、さらに旅行に来て、その地元の方々に何かを返す、例えば地元のコミュニティと一緒にタロイモ畑でドロドロになった後、みんなが笑い、満足した表情を見ると私は嬉しく思うだろう。
地元の人たちと一緒になって取り組んだ後の満足感は、違った形で旅の体験になる。深くコミュニティと連携するような観光を作り上げることで、再生型観光のハードルも下がってくるのではないかと思う。簡単なことではないが、やっていなかければという意識を持っている。
カウアイ観光局 スー・カノホ局長
カウアイ島では、ホットスポットのメン テナンス、問題点をどう解決していくかに重点を置いている。
ハ エナ州立公園では、トレイルやビー
チ への人気が高く、オンラインの予約システムの導入とパーキングの有料化、シャトルの運行を開始した。地元コミュニティの方々に参画して頂き、メンテナンス、コントロールしながら訪問者により良い体験をして頂けるよう努力を重ねている。
また「マラマカウアイビデオ」を製作し、いかに安全に島で過ごせるかを提案。地元の経済活性化においては、「メイドインカウアイ」、地元で作った産品をしっかり買って頂くことで、経済を回すようなサポートをしている。
おすすめ体験
ガーデンツアーがイチ押し。アメリカのナショナルボタニカルガーデンの3つがカウアイ島にある。また島にある9つのゴルフ場では、サンセットゴルフもイチ押しの体験。他にも、フードトラックが増えて大変人気。さらにテイスティングカウアイツアーやファームツアーで地産地消が楽しめる。
オアフ観光局 ノエラニ・シェリング-ウィーラー局長
オアフ島のDMAPについて
経済とのバランスを意識しながら地元コミュニティと一緒に協議を重ねている。特に観光客にあまり訪れてもらいたくない場所、またホットスポット(例えば、ハナウマ湾、ダイヤモンドヘッドは事前予約が必要)をしっかりと観光客に伝えることに力を入れている。
またハイブリッド車のレンタルや、道路が混雑するラッシュアワーの情報を事前に紹介、さらに公共のバスの利用促進にも注力している。
オアフ島でも地元ビジネスのサポートを行っている。「バイローカル」として、物産品だけでなく、エンターテイメントや地元ミュージシャンによるライブなど、「ローカル」な体験も情報を集めて積極的に告知している。
おすすめ体験
「マラマハワイ」を実践できるボランツーリズムのプログラムが充実。例えば、外来種の海藻を取り除く作業やサンゴ礁の保全のための活動など、地元の人と一緒に参加できる新しい観光のスタイルだ。クアロアランチにはこうした新しい「マラマハワイツアー」がどんどんできている。またパールハーバーには、新しい潜水艦博物館がオープンした。
マウイ観光局 PRマーケティングディレクター リアン・プレッチャー氏
マウイ郡(マウイ島、ラナイ島、モロカイ島)のDMAPについて
ホットスポットでのオンライン予約システムを導入したり、東部のハナへ向かう「ロード・トゥー・ハナ」では、地元の方々に参画頂き、旅行者に注意事項を伝えたり、新しいツアーを作ったりしている。
もうひとつ力を入れているのは、サンゴ礁の保護。すべての化学物質を排除した環境にやさしいミネラルサンスクリーン (日焼け止め)しか使ってはいけない条例を2022年10月に制定した。12月からは、州立公園にミネラルサンスクリーンのディスペンサーを置き、無料で使えるようにしている。
ラ ナイ島では、ラナイタウンに小さな
シ ョップを設け、旅行者に来て頂けるよう、ガイドマップやアプリを開発した。
おすすめ体験
西部のラハイナのチョコレート工場ツアーでは、カカオ畑の見学やツリーハウスでの試食、工場見学ができる。ハレアカラでのサンライズが大変人気で、事前予約システムを導入したが、デイタイムのハイキング、夜の星空観賞のツアーもある。ラナイ島には、新しいウェルネス施設やアドベンチャーパークがオープン、 Eバイクのレンタルが可能だ。
ハワイ島観光局 ロス・バーチ局長
ハワイ島でのDMAPについて
パートナーや企業、自治体、さらに地元コミュニティが集まり、さまざまな立場から意見交換をしたのが初めての体験だった。10のアクションプランと、45のサ ブアクションプランを立ち上げたが、そのどれもが重要で一度に並行して進めている。エネルギーがいるが、チームで進めていくプロセスが重要だ。
ハ ワイ島に関しては、ホットスポットのメンテナンスを進めており、特に私有地での管理やルール作りが難しく、解決には地元コミュニティの参画が必要。マウナケアの星空観賞、ハワイ火山国立公園(キラウエア火山)、マンタツアーの3つが人気だが、オーバーツーリズム状態で今後いかに規制をかけていくか検討している。ただ制限を設けるのではなく、地元コミュニティと訪問者の双方にとってより良いものとするために制限を設けているという認識だ。 他にも、住民と観光客双方が実践できる取り組みを目し、地元主導のハワイ語やハワイ文化継承のためのトレーニングプログラム確立へのサポートを行っている。
おすすめ体験
コロナ前にあったアトラクションは、すべて戻っている。「マラマハワイ」のプログラムとしては、植樹ツアーや養魚池の復元、ビーチ清掃など、どうやってプロダクト化していくか、いろいろと進めている。長らく休業していたコナビレッジが再オープンする予定で、7月から予約を取り始めている。