マーケットレポート アメリカの魅力を再発見する 新たな切り口による旅行商品造成の可能性
海外旅行需要が緩やかながらも復活するなか、アメリカ方面においても航空便の再開、またエンジェルス大谷選手の活躍でカリフォルニア州アナハイムへの旅行需要が伸びるなど、需要は着実に回復している。しかしながら新型コロナウイルスの影響で、社会が大きく変わり、それに伴い旅行スタイルも変化、これまでの旅行商品ではその変化したニーズに応えられなくなってきている。
これからは新しい切り口による旅行商品造成が求められており、まだあまり知られていないエリア、また現地での体験や交流を盛り込んだユニークな内容で、その変化したニーズに応えていく必要がある。多彩な魅力あふれるアメリカは、まだまだ知られていない魅力が数多く眠っている。こうした「隠れた魅力」を発掘し、これまでにない新しい旅行商品をいかに消費者に提案できるかが今後のアメリカ旅行市場のカギを握るといっても過言ではないだろう。
日米両政府は来年を「日米観光交流年」に設定、双方向で交流の気運が高まっている。日本からアメリカへの旅行需要を盛り上げるべく、いかに新しい切り口による旅行商品造成を進めていくのか、旅行会社の事例も紹介しながら、その可能性を探ってみたい。
旅行形態の変化に合わせた商品展開
まだあまり知られていないエリアの商品化へ
【ベルトラ株式会社】
「今までパッケージツアーを利用してきたお客様たちがまだ戻ってきていない。旅行形態が変わり、自分自身で回りたいという人が増えている。こうした人たちは行動範囲が広く、ゲートウェイ都市から一歩進んで、まだあまり知られていない場所への需要が増えると見ている。これからは、今までに注力できてない都市への需要を増やしていきたい」
そう語るのは、オンラインでさまざまな旅行商品を販売するベルトラ株式会社海外事業部北米エリアセールスマネージャーの赤瀬太一氏。実際に観光庁発表の「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」(2023年7月)を見ると、海外旅行全体の総取扱額がコロナ前の2019年同月比で51.9%まで戻っているのに対し、「旅行商品ブランド(募集型企画旅行)」に限ると、わずか14.5%にしか達していない。
旅行会社別で見ても、2023年7月のJTBの商品別取扱額で海外旅行は2019年同月比で47.1%なのに対し、企画商品取扱人数(ルック)は13.6%。またエイチ・アイ・エスの2023年8月の海外旅行取扱高は、手配商品で80.6%、企画商品で54.6%と、いずれもパッケージツアーの戻りは全体的な海外旅行需要と比べ、戻りが遅い。
夏休みはファミリー層の戻りが顕著
貸切チャーター観光の需要伸びる
一方、ベルトラのアメリカ方面の売上額は「コロナ前と比べ6割程度」(赤瀬氏)に推移。特に夏以降の回復が顕著だという。同社の海外旅行商品で人気なのがアジアとハワイ。アメリカは、ヨーロッパと共にそれらに次ぐシェアを誇る。
アメリカ方面の客層を見ると、多いのがファミリー層。特に「夏休みは増加した。お盆の時期には3~4名、二世代、グループも見られた」とのこと。また年齢層が上がっており、円安の影響で旅行代金が上がっていることから、「学生が減り、代わりにお金や時間に余裕のある層が増えてきている」傾向にある。
コロナ前との違いとしては、「貸切チャーター観光」の需要が増加。国立公園のツアーも人気だ。また西海岸の人気も高まり、なかでも好調だったのがカリフォルニア州アナハイム。「これまでにも商品はあったが、今年はロサンゼルスエリアの旅行商品の中で、野球観戦や送迎、空港送迎など、アナハイム関連の商品が売り上げ上位を占めている」という。
まだ知られていないエリアの商品開発
「定番」との組み合わせも
ベルトラでは、今後こうした個人旅行の層へ向けたアプローチをさらに強化していく方針。赤瀬氏は「パーツごとに購入して頂けるような商品ラインナップを強化していきたい」と意欲を見せる。なかでも注目するのが前述の通り、日本人になじみの薄いエリアの商品開発だ。
「今年7月のブランドUSAのセールスミッションでさまざまな州の観光局より、国立公園や他にはない特徴を持った景色や生態系の紹介があった。こうした素材を発掘し、見せ方を工夫すれば、まだまだ日本人にアピールできるのではないか」と期待を寄せる。
一方で「“ザ・アメリカ”と言える定番もお客様からの引きが強い」ことから、こうした定番素材との組み合わせによる提案も検討していく。
「発信の仕方が重要」
コラボレーションで訴求、情報収集も重要
まだあまり知られていないアメリカの旅行素材をどう消費者に紹介していくのか?赤瀬氏は「発信の仕方が重要。事前にインターネットで調べても、こうした旅行素材は当然、最初に出てくることはない。こちらが主体となって発信する必要がある」と答える。
なかでも重視するのがコラボレーション。パートナーである現地サプライヤー、またユニークなところではアメリカ国内の州や都市と姉妹関係のある日本の自治体、DMOと連携、訴求していくことで旅行需要の促進につなげていく。
もちろん情報収集も必要。なかでも観光局との関係構築、また「IPW」といったトラベルトレードショーへの参加も重要との認識を示す。
「まずはパッケージで販売」収益面でも期待
若い子連れファミリー層をターゲットに
収益の面でも期待がかかる。ベルトラにとって、アメリカは「単価の高い」方面。「他の方面ではアクティビティー単発の予約だけだったりするが、アメリカ方面では宿泊や送迎、ツアーなどが売れる」(赤瀬氏)という。
「日本人になじみの薄いエリアは、どう旅行すれば良いのか、まだ分からないことが多い。最初はパッケージスタイルの商品など、ケアの手厚い商品を優先的に投入できれば」とのこと。もちろんこうした商品は収益性が高い。
具体的な例として挙げたのが、南部ルイジアナ州のニューオリンズ。アメリカのなかでも他とは違ったユニークな歴史や文化を体験できる都市であり、グルメも大きな魅力のひとつ。「例えば、レストラン巡りや料理体験といった体験型の素材を目指したい」考えだ。
また、ターゲットとして据えるのが子供連れの若いファミリー層。「親も子供もそれぞれ楽しめる商品を出していきたい」と意欲を見せる。
旅行会社ならではの商品造成を
新しい旅行商品が生み出す双方向交流
新しい切り口による旅行商品の造成は、アメリカへの旅行需要促進に向けた大きな契機となる。旅行会社でこれまで培ってきたノウハウを活かし、プロの視点によるより魅力的な訴求ができれば、新たなブーム、潮流を生み出すこともできるはずだ。ソーシャルメディアを使った効果的な露出も消費者へ発信していく上でも重要な施策のひとつとなる。もちろん情報収集も重要。旅行会社発の新たな商品造成で、ぜひ日米間の双方向交流を盛り上げていきたい。
USA Topics
ブランドUSAの販促アイデアコンテスト「ゴールド・ラッシュ」
ベルトラがグランプリ獲得
アメリカ合衆国の公式観光促進団体であるブランドUSAは、9月28日に「ゴールド・ラッシュ:ブランドUSAマーケティング・チャレンジ」のグランプリ決定戦を東京で開催した。日本の旅行会社を対象に、アメリカへの旅行商品を対象とした画期的な販促プランのキャンペーンを募集したコンテストで、ブランドUSA本局のスタッフに加え、日本旅行業協会(JATA)および地球の歩き方の代表者など、計4名の審査員による慎重な審査の結果、ベルトラ株式会社がグランプリを獲得、ブランドUSAは提案販促プランを実現する資金として現金1000万円を贈呈した。
ベルトラは、「Rediscovering America」と題した革新的な販促プランで、パートナーである現地サプライヤーや、アメリカ国内の州や都市と姉妹都市関係を有する日本の自治体、DMO(観光地域づくり法人)と連携、アメリカ各地のまだあまり知られていない地域と魅力を訴求し、旅行促進に繋げていくことを提案した。
特にブランドUSAが注力する、まだあまり知られていない地域での体験が盛り込まれたことで、5つの審査基準(創造性、実現可能性、持続可能性、期待されるRO(I 投資利益率)、ブランドUSAのマーケティング目標との親和性)において高い評価を獲得、グランプリ受賞につながった。
また、学生部門では、ホスピタリティツーリズム専門学校観光科の岩田貴子氏によるシニア向けのマーケティング・プラン「人生も旅もコッカラ~アメリカで花をめぐろう!咲かせよう!~」が優勝、ブランドUSAは賞金10万円を贈呈した。こちらは60代以上をターゲットに、州の花や旬の花を見に行く旅行を提案。全50州すべてをカバーできる地理的な広がり、また全国の植物園や花屋で販促するアイデアが高い評価を得た。
2024年を「日米観光交流年」に
日米双方向交流を強力に推進
観光庁は、アメリカからの訪日観光と消費拡大の推進、および日米双方向の観光交流拡大を目的に、9月20日にニューヨークで「訪日観光レセプション」を開催。レセプションでは「これまでにない体験」をテーマに、日本の観光の魅力についてプレゼンテーションが行われたほか、斉藤鉄夫国土交通大臣から2024年を「日米観光交流年」とすることを発表。日米双方の観光交流拡大を集中的かつ強力に推進していくとした。高橋一郎観光庁長官もレセプションの開催にあわせて訪米し、米国商務省のビール旅行・観光担当次官補代理と会談を行い、「交流年を活用して、インバウンド・アウトバウンド双方向の交流を一層拡大していくことで認識を共有した」と述べた。