生成AI活用で新しい観光サービスを創出
「生成AI がデフォルト」の時代に
TCVBビジネス交流会、導入事例を紹介
東京観光財団(TCVB)は、賛助会員向けの令和5年度ビジネス交流会を開催、「生成AI活用で新しい観光サービスを創出」と題し、現在進行中の生成AIの導入事例や現状、課題などについて取り上げた。前半の講演では、東京都の導入事例のほか、生成AIを導入した企業動向や人材育成について紹介。後半では参加企業による活用事例、また参加者によるディスカッションを通じ、生成AIの可能性について議論した。生成AIはビジネスの現場でも導入が進んでおり、今後は導入を前提とした取り組みが求められる。
利用環境やルール、活用例をガイドラインで提示
情報漏洩や著作権保護、回答の裏付けに配慮
まず、東京都の導入事例として、東京都デジタルサービス局総務部企画計理課の大迫未佳課長(写真)が「東京都における文章生成AIの活用」をテーマに講演。東京都では昨年8月、全局職員約5万人(都立学校の教員含む)を対象に、文書生成AIを導入した。
大迫氏は、導入の経緯について「業務の在り方を大きく変革する可能性を秘めている一方で、情報漏洩やハルシネーション(もっともらしい誤情報)などのリスクが指摘されており、導入にあたっては慎重な検討を進めた」と説明。
こうした文書生成AIの導入のプラス面、マイナス面を考慮し、「業務で活用できる環境をどう用意するか」「情報漏洩等の懸念にどう対処するか」「業務にどのように活用できるか」の3点を検討。これらを踏まえ、文章生成AIの利用環境や利用上のルール、効果的な活用方法を「文書生成AI利活用ガイドライン」にまとめた。なお、同ガイドラインは一般向けにも公表している。
講演では、その一部を紹介。利用環境においては、「入力データが学習目的で利用されない」「入力データの保存をサーバー側で行わない」ことで情報漏洩のリスクを低減、より安全な利用環境を共通基盤として整備。利用ルールにおいては、「機密性の高い情報は入力しない」「著作権保護への配慮」「回答の裏付け確認」「回答をそのまま利用する際の生成AI使用の明記」以下の4点を設けた。
活用事例については、「業務課題解決の提案」など、職員によるアイデアソン(アイデア出し)で集めた事例を「文書生成AI活用事例集」として、今年1月に公表。他にも都民のエンゲージメントを高めるSNSの文章や英文レターなどの活用例も紹介した。
最後に文章生成AI導入後の課題や展望を、職員アンケートの結果を交えながら言及。「仕事の効率が向上したか」の設問では、「大幅にあがる」と「あがる」が計66%に達した。一方、「利用していない理由」では、「どの業務に利用したらよいのかわからない」「利用する必要を感じない」「申請方法がわからない」「利用できる業務がない」が上位の回答となった。大迫氏は「新しい技術なので、職員にはきちんとルールを徹底した上で利用してもらっている」と述べた。
今後については、文章生成に限らず、画像とか音声、動画など、「あらゆるサービスにAIが組み込まれてくるなかで、自然と生成AIを利用しているというAIがデフォルトになる時代が来る」と指摘。また「職員の利用」「都民に対する利用」を2軸に、今後は特定行政分野のデータを用いた文章生成AIの利用検証を進める意向だ。
企業はルール作りなどリテラシーを重視
生成AI導入が転職先の判断基準にも
続いて「生成AI導入の企業動向と人材育成」をテーマに、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)企画室長の三浦康平氏(写真)が講演。企業の導入状況として、三浦氏は「認知度や利用経験、活用の推進度合いは向上している一方、推進中や検討中など、活用前段階が調査結果で53%と、まだ足踏みしている段階でもある」と指摘。また生成AIに対する「リスクの存在」を背景に、スキル以上にルール作りなど、リテラシーが重視されている傾向が強いとした。
三浦氏は企業例にGMOを挙げ、同社はメールやスクリプトの作成など、生成AIの活用で月に9万6000時間の業務時間を削減。これは月600人相当の業務時間にあたる。調査結果によると、約95%が質向上を実感しているという。
一方、生成AIは人材採用にも大きな影響を与えている。生成AI導入企業の社員調査によると、64%の回答者が転職先を選ぶ際に、転職候補先が生成AIを積極的に活用しているかが関係していると回答。三浦氏は「生成AIに対する企業の姿勢が転職先の判断基準のひとつとなっている」と指摘した。
また今後の展開として、誰もがAIを使うことが当たり前となる「AIの民主化」を予測。「生成AIが仕事を奪うのではなく、生成AI人材が仕事を奪う時代になる」と言及した。GUGAでは、生成AIのリテラシー向上を目的に資格試験「生成AIパスポート」を設けており、従業員に資格取得を促す企業数も増えているという。
後半の活用事例では、アプリ開発などを手掛けるbravesoft株式会社、多言語コミュニケーションツールを提供するKotozna株式会社の2社がそれぞれプレゼンテーションを行った。また交流会参加者がお互いに生成AIでできることを出し合い、それぞれ発表する場を設け、生成AIの可能性について探った。
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