ハワイが推進する再生型観光 サステナブルからリジェネラティブへ【ハワイ州観光局 日本支局】
ハワイ州の観光戦略は、環境負荷を抑え、持続可能な観光を目指す「サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」から、旅行者や地域住民が環境保護や地域文化の尊重に主体的に関わる「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」へと進化。現在は、さらに一歩踏み込み、観光を通じて自然環境や地域社会の再生を目指す「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」を推進している。こうした観光戦略は、オーバーツーリズムの抑制や地域住民の観光に対する満足度向上にもつながっている。
ハワイ州では、一連の観光戦略に基づき、地域住民が主体となって観光施策の策定に関わり、再生型観光を推進。また、再生型観光に基づいた体験プログラムの開発や促進、支援にも注力している。日本市場では、ハワイ州観光局日本支局(HTJ)が「マラマハワイ」をスローガンに掲げ、旅行会社による体験プログラムの開発や商品化が進んでいる。

ミツエ・ヴァーレイ氏
地域住民自らが観光のあり方を決める
デスティネーション・マネジメント・アクション・プラン(DMAP)

事前予約制度を導入し、混雑緩和と交通負荷の軽減を実現
(マウイ島、イアオ渓谷州立公園)
ハワイ州の観光戦略に基づき、各島の観光指針をまとめたDMAPは、地域住民、政府機関や各自治体、観光事業者、さらにその他の企業団体が連携を図ることで、観光の方向性を再定義し、再生型観光へと進化させるための具体的なアクションを示している。
地域住民が主体となって観光施策を策定しているのが大きな特徴で、各島の観光のあり方を見直し、住民の生活環境の保全や文化の継承、自然資源の保護を軸に、観光業の地域社会への影響を抑えることを目指している。
具体的には、観光名所の混雑緩和や交通負荷の軽減、地域文化や自然環境の保護活動を進めるとしており、地域住民と旅行者が共に満足できるための施策が行われている。
当初は、2021~2023年までの3年間で観光産業の安定化とパンデミックからの回復、各島が望む観光産業への再構築を目的に策定したが、現在はそれを継承し、さらなる発展に向けた取り組みが各島で進む。

事前予約制度を導入し、混雑緩和と交通負荷の軽減を実現
(オアフ島、ダイヤモンドヘッド州立記念碑)
DMAPに基づく再生型観光の体験プログラム

再生型観光プログラムの例(クアロアランチ・ハワイ)
各島のDMAPに基づき、再生型観光の体験プログラムも増えている。クアロアランチ・ハワイの「マラマ体験ツアー」は、カロ(タロイモ)の植え付けや収穫体験などの体験を通じ、その土地や人と触れ合い、環境をより良い状態へ再生することに貢献できる。
また、非営利団体の「パパハナ クアオラ」では、旅行者がボランティアとして地域貢献できる機会を設け、ハワイ固有の植物を守る重要性を啓発。イオラニ宮殿では、ハワイ王国と日本の歴史的なつながりを学ぶツアーを実施。DMAPの取り組みにより、旅行者がハワイの未来を支える再生型観光プログラムが広がっている。

再生型観光プログラムの例(パパハナ クアオラ)
各島の再生型観光へ向けた施策を支援、促進
スチュワードシップ・プログラム、キュレーター認証
またハワイ州は、再生型観光を促進するため「スチュワードシップ・プログラム」を立ち上げ、DMAPに基づく各島のプロジェクトへの支援も行う。
例えば、ハワイ島ポロル渓谷では、観光客増加に対応した訪問者管理と地域資源の保護プロジェクトに出資。地元住民が「案内役」として、地域の自然や文化を観光客に紹介するというユニークな取り組みは、地域社会と協力しながらハワイの自然や文化資源への観光の影響を管理するためのモデルケースとして注目されている。
東マウイ島でも、観光管理実証プログラムで地域団体と連携。生態系の保護や観光地の収容能力調査、観光客への責任ある観光への啓発など、幅広く再生型観光の実現をサポートしている。

(東マウイ島ワイルア・フォールズ)
再生型観光に取り組む観光事業者(企業、団体)を認証する「キュレーター認証」も新たに設けた。環境や文化支援、公平性や安全性、コミュニティ、さらにゲスト体験の6つの評価基準で評価するもので、再生型観光推進へ向けた積極的な取り組みとして注目を集めている。既に日本の旅行会社の現地法人3社(HISハワイ、ジャルパック・インターナショナル・ハワイ、JTBハワイ)が取得済みだ。
他にもハワイ州では、2025年上半期(1~6月)に州内で予定する105の地域プロジェクトやイベントに対し、総額約300万ドルの支援を行う予定。これにより、旅行者も参画できる新たなプログラムの企画や開発を促進し、再生型観光の実現に向けたさまざまな取り組みを支援していく。
「マラマハワイ」を展開—日本市場での取り組み
ハワイ州の観光戦略を受け、ハワイ州観光局 日本支局(HTJ)では、旅行者にハワイの自然環境や文化、歴史を尊重しながら訪れることの大切さを伝える「マラマハワイ」をスローガンに掲げ、責任ある観光、再生型観光を推進するプロモーションを展開している。
「マラマ(Mālama)」とは、ハワイ語で「思いやり」や「大切にする」という意味。この啓発活動では、日本の旅行者向けに、責任ある観光を促進する情報発信や再生型観光に繋がる体験プログラムを提案する。
例えば、ハワイの自然を守るビーチクリーンや植樹活動、文化を学べるワークショップなど、観光を通じて地域に貢献できる取り組みを紹介する。また「マラマハワイ」に賛同する観光事業者と連携し、再生型観光に基づいた旅行商品やツアーの開発、販売も進める。
日本市場における「マラマハワイ」の展開により、日本の旅行者がハワイの環境や文化を守る意識を高めるとともに、ハワイの地域社会と関わることによる再生型観光の実現が期待されている。

日本の旅行会社による「マラマハワイ」推進の取り組み
現地で情報提供、再生型観光の体験ツアーも実施
エイチ・アイ・エス(HIS)

HISは、2022年に「マラマハワイ」に関するMOU(覚書)をHTJと締結(2024年に2027年までのMOU継続を発表)。「マラマハワイに向けたHISの10の取り組み」を掲げ、再生型観光への取り組みを行っている。
ハワイの「LeaLeaラウンジ」内には「マラマ・ステーション」を設置。旅行者に向けた環境保護や文化継承に関する情報提供を行い、持続可能な観光への意識向上を図る。具体的には、ビーチクリーン活動や環境に配慮した日焼け止めの利用、再生型観光に取り組む企業の現地ツアーへの参加を通じて、旅行者はハワイの自然や文化を守る取り組みに参画できる。
また、再生型観光の体験ツアーを実施。旅行者が実際に地元の活動に参加できる機会を提供している。さらに、旅行パンフレットを通じて、責任ある観光の重要性を広めている。
再生型観光の体験プログラムをオプショナルツアーで提供
JTB

JTBは「マラマハワイ」専用サイトを設け、ビーチ清掃など再生型観光の体験プログラムをオプショナルツアーとして紹介するほか、電気バスの導入や現地スタッフによる貢献活動など、自社の取り組みについても取り上げ、漫画を交えた「マラマハワイ」の啓発活動にも取り組む。
ユニークなところでは、カカオ農園のツアーを商品化、「マラマハワイ」の取り組みとして紹介している。このツアーでは、ハワイの農業と文化を学びながら、地域経済への貢献を体験できる内容となっている。
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